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小室事件とおふくろさん事件について

目次

一 はじめに
二 小室事件−譲渡可能な著作権の財産権的な部分について
 1.ジャスラックに預けたら、自分の曲でも勝手に譲渡はできない(信託契約とは)
 2.預けた著作権を譲渡できる場合(限定された場面でだけ譲渡は可能)
 3.小室さんはどのような取引をしたのか
 4.著作権の二重譲渡、三重譲渡の問題(ジャスラックと文化庁登録制度)
三 おふくろさん事件−譲渡できない著作者人格権部分について
四 最後に

一 はじめに

音楽家の小室哲哉さんが著作権売買を巡る5億円詐取容疑で2008年11月4日に大阪地検特捜部に逮捕されました。また、時を同じくして川内康範さん作詞「おふくろさん」の改変問題を巡って歌手森進一さんと川内さんのご遺族が和解したとの報道がありました(11月6日付)。
著作権を理解するうえで車の両輪となる著作権の財産権的な部分(小室事件)と人格的利益の部分(おふくろさん事件)が同時期に大きな話題となりました。
この問題は、音楽著作権に限らず、プログラムやイラストを含めた著作物の著作権に関する取引(ライセンス契約など)全般に係わるものとなります。そこで以下では、この二つの事件について解説してみたいと思います(なお、小室事件については、具体化した音楽著作権使用料(印税)に関する債権的な取引ではなく著作権自体の譲渡(物権的な取引)の場面を前提としています。)。

二 小室事件−譲渡可能な著作権の財産権的な部分について

1.ジャスラックに預けたら、自分の曲でも勝手に譲渡はできない(信託契約とは)

自分が創作した楽曲(作詞、作曲)については、一般的に音楽出版社(音楽著作権の管理や楽曲の利用開発を行う事業者をいいます。音楽CDの製造販売を行うレコード会社とは別です。)に楽曲の著作権を譲渡したうえで音楽出版社がジャスラック(社団法人日本音楽著作権協会)に信託します(著作者がジャスラック信託者である場合もありますし、音楽出版社を経ない信託の場合もあります)。
ジャスラックとの信託契約というのは、ジャスラックに楽曲の著作権の移転をしたうえで利用の許諾その他の管理をジャスラックに行わせることを目的とする管理委託契約で、著作権を処分することは除かれます(信託法2条1項、著作権等管理事業法2条、ジャスラック著作権信託契約約款3条1項。なお、ジャスラック著作権信託契約約款については以下単に「約款」といいます。)。
この信託契約では、ジャスラックが著作権者になって、ジャスラックが権利者として楽曲の利用の許諾、徴収、分配の業務を行い、場合によっては訴訟も行います。
ですので、ジャスラック信託楽曲を信託契約期間中は楽曲の著作者といえども著作権者ではないので、委託者が信託した楽曲の著作権を売買して他人に権利を移転させることは制限されます。

2.預けた著作権を譲渡できる場合(限定された場面でだけ譲渡は可能)

信託者は過去、将来の一切の楽曲の著作権をジャスラックに預けることになります(約款3条1項)。一旦信託関係に入ったら、「友達のために作った楽曲だけ、友達個人にその作品の著作権を譲渡する」ということもできません。
ジャスラックに信託されるべき楽曲の著作権を譲渡(一部または全部)できる場合は、あらかじめジャスラックの承諾を得ることを前提に、以下の4つの場面に限られています(約款10条、経過措置1)。
(1)社歌、校歌など特別な依頼によって作成された楽曲をその会社や学校に譲渡する場合
(2)音楽出版社(ジャスラックと信託契約している音楽出版社)へ譲渡する場合
(3)広告用に依頼されて作成された楽曲の放送権(公衆送信権のうち放送に係る権利)を広告主に譲渡する場合
(4)TV番組や映画のテーマ音楽、BGM用に依頼されて作成された楽曲の放送権や上映権を番組制作者や映画製作者に譲渡する場合

従って、著作権の全部譲渡なら通常、約款上は著作権の譲渡先は音楽出版社である必要があります。

3.小室さんはどのような取引をしたのか

小室哲哉さんが、今回の事件でどのような契約を出資者と締結したうえで、仮契約金5億円を受領したのか正確なところはわかりませんが、出資者(譲渡先)がジャスラックと信託契約をしている音楽出版社であること、なおかつ現在の楽曲を管理している音楽出版社が著作権の譲渡を承諾しない限り小室さんが譲渡契約を出資者と締結してもジャスラックからの使用料の配分を受けるなど出資の実をあげることは困難になります。
今回、出資者のために譲渡先の受皿となる音楽出版社は作っていたとは想像できますが、小室楽曲800曲余を管理している既存の音楽出版社が、そう簡単に揃って著作権譲渡を承諾するとも思われないところです。
ただ、詐欺容疑ということですが、出資者も事前準備としてジャスラックとの信託契約など、楽曲の著作権の権利関係については容易に調査し把握できたでしょうから、どの部分で騙されたといえるのか(*1)。2005年8月にはiTunesが開始されるなど当時はインターネット音楽配信事業の勃興期でしたが、どのようなビジネススキームを小室さんは出資者に提示して受皿を用意したのか、興味深いところです(*2)。この点の検討については、別の機会に譲りたいと思います。

4.著作権の二重譲渡、三重譲渡の問題(ジャスラックと文化庁登録制度)

ところで、小室さんが自分の関係する会社に二重譲渡したうえで文化庁へ著作権登録もしていた楽曲もありました。文化庁の「著作権登録状況検索」で著作者「小室哲哉」を調べてみると、11月4日現在、52件(作詞、作曲でそれぞれ別件となります)の登録がされています。このうちのいくつかの楽曲が問題となっているようです。なお、出資者への譲渡を含めると三重譲渡になります。
700万曲以上(*3)の内外楽曲のデータを管理するジャスラックに(あるいは信託しようとする音楽出版社など委託者側に)すべての管理楽曲について対抗要件具備のために文化庁登録を要求するのは非現実的です。文化庁登録では、譲渡登録は1件あたり18000円ですし、J-WID(ジャスラック作品データベース検索サービス)に登録されている国内楽曲100万曲に限って文化庁登録をするにしてもたいへんな事務手数となります。既に確立している取引システムと文化庁の著作権登録制度をあえて整合させる必要があるのかどうかは、今後議論の余地がありそうです(信託法14条、著作権法施行令35条、約款14条参照)(*4)。
ジャスラックやイーライセンスなど音楽著作権管理団体の組織力を利用することで音楽著作権はその利用開発による大きな収益を回収することができます。
権利者は二重譲渡問題を起こした場合、ジャスラックとの契約でいえば、分配保留、許諾停止、信託除外、契約解除の措置が執られる可能性があります(約款20条、23条)。そうなれば楽曲の利用価値も減じてしまいますので、細心の注意が必要です(*5)。

三 おふくろさん事件−譲渡できない著作者人格権部分について

森進一さんの代表作ともいえる「おふくろさん」は作詞が川内康範さん、作曲が猪俣公章さん、音楽出版社は渡辺音楽出版で、ジャスラックに全信託となっています。
著作権には、譲渡可能な財産権の部分(複製権など著作権法21条〜28条参照)と譲渡ができない著作者人格権の部分(同一性保持権など同18条〜20条参照)があります。
おふくろさん事件では、森進一さんが歌詞の部分に勝手に改変を加えたということで同一性保持権(著作者の意に反して変更、切除その他の改変を受けない権利)の侵害性が問題となりました。ここで考えなければならない問題としては、(1)森進一さんの語りが同一性保持権を侵害するのかどうか(2)ジャスラックの取扱い、の2点になるかと思います。

(1)森進一さんの語りが同一性保持権を侵害するのかどうか

今回、森さんは歌詞に直接修正を加えたわけではなくて、バース部分に語り(前説)を加えていました。その場合にも作詞家の同一性保持権を侵害する(著作権法20条1項)といえるのかどうか、また、前説を加えた行為が作詞家の名誉や声望を害する方法にあたる利用行為であれば著作者人格権侵害「みなし」行為とされますが(著作権法113条6項)、その場合にあたるものだったのか、議論が分かれるところです。

(2)ジャスラックの取扱いについて

ジャスラックが信託を受けるのは楽曲の著作権の財産権的な部分だけです。著作者人格権はその性質上一身専属的なもので著作者といえども他人に譲渡ができないので(著作権法59条)、信託契約の対象にはなりません。
したがって、川内康範さんの著作者人格権に係わる問題については、川内さんが自ら処理しなければならずジャスラックは信託契約上、法的には係わらないことになります。
ジャスラックも、おふくろさん事件について、「改変されたバージョンを利用すると、著作権法で定めた同一性保持権の侵害その他の法的責任が生じる恐れがある」との注意喚起をウェブサイト上で行うに留まっています。
本来、著作権等管理事業法16条や約款を前提とすれば、「おふくろさん」楽曲を使いたい人には誰に対してもジャスラックは許諾を出さなくてはなりません(強制許諾。許諾停止できる場合については、約款20条2項参照)。
ただ、実際問題としては、実力のある作詞家のかたが、「森さんには使わせない」と公言すれば、森さんご本人や音楽事務所、音楽出版社、放送局も萎縮して利用を控えることは明白です。
川内さんが2008年4月6日にご逝去されて、ほぼ半年(11月6日)で森さんがご遺族と和解をされたことで今回の改変騒動は解決をみることとなりました。

四 最後に

小室事件とおふくろさん事件は、音楽著作権に関する事案ですが、その基礎は著作財産権と著作者人格権という著作権の二つの側面に係わるもので著作権取引全般に関係する問題です。会員各位におかれましても予備知識として参考にしていただければ幸いです。

(注記)

(*1)出資者が、今回の取引について自ら刑事事件や民事事件にした場合、楽曲にダーティーなイメージが付いてしまってカラオケやCM、放送、音楽配信などで使われなくなってしまいます。そうすれば著作権印税が減少する(投資価値が減じる)訳ですから、一番避けたい事態です。刑事告訴するのは余程の判断だったと思われます。
(*2)音楽著作権をファイナンス取引の対象として考える場合の諸問題について、寺本振透「知的財産権信託の解法」(2007)92頁以下「第2章音楽に関する著作権の取扱いと信託の意味」参照。
(*3)ジャスラック保有作品資料数は、国内作品・外国作品合わせて約735万件。そのうち利用実績のある作品が作品検索サービス「J-WID」へ登録公開されています。「J-WID」への登録作品数は、国内作品:約107万作品、外国作品:約135万作品(2008年4月)。
(以上、ジャスラックサイトよりhttp://www.jasrac.or.jp/profile/outline/index.html)
(*4)欺罔目的で文化庁という公的な機関が行っている著作権登録の登録原簿謄本を出資者に見せて、自分(もしくは自分の関係会社)に著作権が帰属していることを信用させたのであれば、「登録制度の悪用」という他ありません。利用数が少ないなどの「登録制度の不備」ということも一部報道で指摘されていますが、今回の事件とは直接関係しないのではないかと思います。もちろん、より利用され易い登録制度への改善取組みを否定するものではありません。
(*5)実際、ジャスラックは11月7日付おしらせ「文化庁に登録されている小室哲哉氏の管理作品の取扱いについて」において、文化庁登録されている楽曲のうち11作品について現在、著作物使用料の分配を保留していることを公表しています。

以上、東京都行政書士会会報誌「行政書士とうきょう」(2008年12月号)所収

(*なお、信託の登録は、1件につき3000円です)