「肝心な点は感動すること、愛すること、望むこと」

(財)著作権情報センター「コピライト」581号(2009.9)所収

行政書士 大塚 大*

 「真理がわれらを自由にする」
 大学院生の頃、国立国会図書館の中央受付上部に掲げられたヨハネの福音書にまつわるこの言葉の意味を文献出庫を待ちながら心のなかで何度反芻したことでしょう。
 わたしは、元々美術、写真や絵画が好きだったということもあって、行政書士としてスタートした当初は美術と法律を繋ぐ仕事、漠然とですが絵画などのいわばアナログな著作物の版権管理業務や行政書士業務である文化庁登録申請業務にでも携われれば、と思っていました。ところが、起業されたIT系技術者やクリエイターさんのお手伝いをし始めると、デジタルな著作物を取り巻く環境の激変さ、取引慣行の変化に目を見張らされることとなりました。
 例えば、音楽アーティストさんの例でいえば、今までレコード会社、音楽出版社、音楽事務所という既存の枠組みのなかで仕事をしてきたものの、外国で音楽制作の現場やマネージメントを勉強してきたことも踏まえて自らブランディングしていこう、原盤製作や音楽配信に主体的に取り組もうという意欲的な動きがあります。また、漫画家さんの例でいえば、出版社に対外的窓口の全てを委ねるのではなく、デジタル媒体については自分でコントロールしていこうという機運があります。さらに、製造業者もASP(アプリケーションサービスプロバイダ)システムを利用して広告代理店や卸業者を中抜きして自分でキャンペーンを打ったり、直販を可能にしようとしています。こうした自己変革、独立独歩の機運・萌芽は、デジタル技術、ネット環境の進展なくしては語れないもので、彼らに間近で接しているとまさに、「ネットがわれらを自由にする」という思いを強くします。
 ところで、判例は仕事にも役立つ生きた教材ですが、わたしはブログ(「駒沢公園行政書士事務所日記」)でここ5年ほど最高裁判所のウェブサイトに掲載された著作権に関する最新の判例を素材に取り上げています。そのようなとき、明治大学法学部時代からの恩師である川端博教授(刑事法)がゼミ生に言われていたひとつの言葉が思い浮かんで来ます。
 「学者、研究成果のプライオリティは、正確な歴史認識のうえにある。論文作成の際の文献引用では、決して他の論文を無視をしたり、ごまかしをしてはならない」
 団藤重光博士の元でも研鑽を重ねられた川端先生ならではの学問に対する厳しさ・真摯さを感じる言葉です。そしてまた、著作物の創作性、独創性というものの意味を考えさせる言葉でもあります。わたしがブログに書いた記事は学問とはほど遠い性質のものですが(著作権を勉強している学生さんのサーベイ(資料調査)の為のサーベイくらいにはなるといいな、と思っていますが)、それでもなにがしかモノを書くときは常に気にしている恩師の言葉です。
 また、思い返すと、ブログで判例の検討をする際の視点というのは学部生の頃ゼミでしていたことと全く同じで、当時、伊藤進教授(民法)からは、「裁判所の判断部分をまず読んでみて、そこから事案の概要が分かるような訓練をしてみなさい」と指導を受けました。それから20年近く経た今日でも、判例分析の段取りが変わっていないというのは学部生の頃の勉強も満更無駄ではなかったかな、と今にして思うところです。
 さて、今でもよく利用している母校の図書館の入り口には、次のようなオーギュスト・ロダンの言葉が掲げられています。
 「肝心な点は感動すること、愛すること、望むこと、身ぶるいすること、生きることです。」
 これは、わたしが大学一年生のとき、「法学」の講義を担当をされていた中村雄二郎先生(哲学)が選定し設置された言葉(高村光太郎訳「若き藝術家達に(遺稿)」『続ロダンの言葉』(1920)17頁所収)です。今年7月には、行政書士の仲間で立ち上げた著作権の勉強会(「東京都行政書士会著作権ビジネス研究会」 会員数45名)で半田正夫博士(青山学院院長代行・常務理事)をお招きして講演会を開催しました。「著作権」というキーワードで同業者や研究者、実務家、クリエイターの方々にお会いできること、また、仕事で時代の節目を象徴するような機運や先端的な事業に触れられることが嬉しくて仕方がない今日この頃です。
 いつまでも「著作権」に感動したり、望んだり、身ぶるいしていたいと願っています。

*おおつか・だい:1966年生まれ。明治大学法学部卒、同大学院公法学修士課程修了。大塚法務行政書士事務所。趣味は合気道((財)合気会四段位)。ブログ「駒沢公園行政書士事務所日記」執筆、メルマガ「著作権判例速報」を配信中。

(財)著作権情報センター「コピライト」581号(2009.9)所収

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